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東京地方裁判所 昭和31年(行)90号 判決

原告 エム・シー・ソダノ

被告 東京国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の申立及び主張は別紙「準備手続の結果の要約」記載のとおりである。

(立証省略)

理由

原告の主張第一、第二項は当事者間に争がない。

そこで被告の本件処分が適法かどうかにつき判断する。

原告が昭和二十六年四月一日から日本に居所を有し、原告主張の訴外会社に勤務して昭和二十九年度に訴外会社から百十二万六千百九十九円の給与の支払を受けたことは当事者間に争がないので原告が右年度に支払を受けた給与につき租税特別措置法(昭和二十一年九月一日法律第十五号、以下法という)第五条の二第一項の適用があるかどうかにつき検討する。

訴外会社が法第五条の二第一項所定の法人かどうかはしばらくおき、法第五条の二第一項の適用を受けようとする者は一定の事項を記載した申告書を給与所得の支払者を経由して毎年最初に給与所得の支払を受ける日(年の中途においてあらたに給与所得を有するにいたつた者については最初に給与所得の支払を受ける日)の前日までに当該支払者の所轄税務署に提出しなければならないところ、原告は所定の申告書を提出していないことは当事者間に争がない。

原告は法第五条の二第一項の適用の有無については元来職権をもつて調査すべきものであるから、同条第二項の手続を経なくとも第一項の適用を受けられると主張するのであるが、法第五条の二第一項の規定は、同項に該当する給与所得者の所得税額を軽減するため、政策的見地から所得税法上に設けられた特別規定であり、同条第二項により準用される法第五条第二項の文理に照らしても、法第五条の二第一項に該当する者に対し同項が当然に適用されるものではなく、適用するか否かは同項に該当する者の意思に基く法定の手続による申告に委ねられていると解すべきであるから、その適用を受けようとする者は同条第二項の手続によりあらかじめ申告書を提出しその適用を受ける意思を明らかにし、税務署の調査に資する書類の提出の手続をとらないかぎりその適用を受けられないと解するのを相当とする。したがつて原告の右主張は理由がないといわなければならない。

そうすると原告が訴外会社から支払を受けた前記給与についてはその余の点につき判断するまでもなく法第五条の二第一項の適用はないというべきであるから、右給与全額を所得税法第九条第五号の収入金額全額としてなした麹町税務署長の更正処分には原告主張のような違法はなく、したがつて右処分を適法として原告の審査請求を棄却した被告の処分も違法でないというべきである。

よつて原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 越山安久)

(別紙)

準備手続の結果の要約

第一、原告の申立

被告が原告に対し昭和三十一年六月二十九日付でなした原告の昭和二十九年度所得税に関する審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二、被告の申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、原告の主張

一、原告は昭和二十九年度分の所得税につき麹町税務署長に対し総所得金額を二十八万千百五十四円、税額を五万三千七百円として確定申告したところ、麹町税務署長は昭和三十年九月十四日附で課税総所得金額を百五万八千六百円、税額を四十一万八千八百円と更正し、その頃原告に通知した。

二、原告は右更正処分通知書に国税局調査の旨の記載があつたので右処分につき昭和三十年十月十三日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和三十一年六月二十九日附で右請求を棄却する旨決定し、その頃原告に通知した。

三、しかしながら、被告の右処分は次の理由により違法である。すなわち、

(一) 訴外ゼネラル、エレクトリツク、カンパニー(以下訴外会社という)は米国ニユーヨーク州法に準拠して設立され、その本店をニユーヨーク州ニユーヨーク、二十二、レキシントン、アヴエニユー、五百七十番地に有し、電気的製品の製造及び販売並びにこれに関連する業務(海外投資、技術指導、技術顧問等)を営む会社(法人)であるが、租税特別措置法(以下法という)第五条第一項の外資法人である東京芝浦電気株式会社(以下東芝電気という)と、特許実施権設定契約と技術顧問契約とから成る技術援助契約を締結し、技術資料の提供及び技術指導の業務を行い、なお、東芝電気のほか古河電気工業株式会社等七社とも右同様の技術援助契約をなしているものである。

(二) したがつて、訴外会社は昭和二十六年十月十九日大蔵省告示第一五〇一号(以下告示という)第二項所定の技術顧問業にも従事しているというべきであるから、訴外会社は、その事業活動により外資法人の事業活動が容易となり、且つ外国資本の導入が促進されることとなる事業を営む法人として法第五条の二第一項所定の法人である。

(三) 原告は昭和二十六年四月一日から日本に居所を有し、右訴外会社に勤務して昭和二十九年度に訴外会社から百十二万六千百九十九円の給与の支払を受けたことは争わないが、右給与所得については基礎控除の上法第五条の二により、その五割を控除した額をもつて所得税法第九条第五号の収入金額とさるべきであるにもかかわらず、右給与全額を収入金額全額としてなした麹町税務署長の更正処分は違法であり、したがつて、右処分を適法として原告の審査請求を棄却した被告の処分もまた違法である。

四、よつて被告の右処分の取消を求める本訴に及んだ。

第四、被告の答弁及び主張

第一、第二項は認める。

第三項の(一)は認める(但し、訴外会社が関連業務として告示第二項にいう技術顧問を行つているとの点は不知)。

第三項の(二)は否認する。

第三項の(三)中、原告が昭和二十六年四月一日から日本に居所を有し、訴外会社に勤務して昭和二十九年度に訴外会社から百十二万六千百九十九円の給与の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は争う。

二、被告の主張

(一) 訴外会社は告示第二項所定の技術顧問業に従事しておらず、右告示に大蔵大臣の定めている種類の事業を営んでいないのであるから法第五条の二第一項所定の法人ではない。

(二) 仮りに訴外会社が法第五条の二第一項所定の法人であるとしても、その法人から支払をうける給与所得について、同条項の規定の適用を受けるためには法所定の申告書を当該給与所得の支払者を経由して政府に提出しなければならないところ、原告は、このような手続を履践していないから、原告の給与所得には法第五条の二第一項は適用されない。

(三) したがつて、原告が訴外会社から支払を受けた給与所得について、右法条を適用せず、原告が同社から支払をうけた給与全額をそのまま収入金額として麹町税務署長がなした更正処分及び右処分を不服としてなした原告の審査請求を棄却した被告の決定は適法である。

第五、被告の主張に対する答弁

原告が法第五条の二所定の申告書を提出していないことは認める。

同条第一項の規定の適用有無については、元来職権をもつて調査すべきもので、同条第二項の規定は、第一項の適用の有無について判断の資料を集めるについて政府が納税義務者に協力を求めるための規定と解すべきものであるから、同条第二項の手続を履んでいなくとも原告は第一項の適用を受けるべきである。

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